男は先が見えず、最後尾も見えない「列」に並んでいる。自分が「列」のどのあたりにいるのか見当もつかない。
皆なぜ自分がこの「列」に並んでいるのかわからない。
しかし彼らは一様に並び、長い長い「列」が出来ている。
このような特異な状況を設定することで作者は現代社会に生きる人間の姿を描こうとする。
誰もが何とか前に行こうとして、人を出し抜いたり、隣の列に移ってみたりしている。
この列はいったい何を表しているのか? そこに浮き上がってくるわれわれの姿はいかなるものなのか?
自己の内側を見たときに作者の描き出したかったものが痛切に私たちに迫ってくる、そんな作品です。
大江健三郎を引き継ごうとする作者とともにしばし考えてみませんか。
2024年野間文芸賞受賞作品 講談社
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