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書籍紹介

『ハッピーレクイエム』

驚いたことに、この『ハッピーレクイエム』という290ページの長編は、彼の処女作だという。2023年1月5日発行。
私は読み始めてすぐ、「こういう小説が読みたかったんだ」と快哉を上げた。
最初のシーンから、主人公聖子(しょうこ)の恋人の平松が、オーケストラの団員たちの飲み会の場で静かに死を迎える。
その死自体は静かでも、大学生で医学を専攻している吉川(よしかわ)がいち早く彼の異変に気づき、凄まじい延命治療を行いはじめる。戸惑い、やがて協力する団員たち。
この冒頭のシーンの激しい緊迫感にまずは心をつかまれてしまった、この作品は絶対に面白い。そう思いながら読み、そしてその期待は裏切られなかった。
聖子というやや特異な女の「思想遍歴」の記述も、まったく飽きさせない。
利発な彼女はキリスト教の影響下に育つが、やがて以下のように考察するに至る。
「……もしヒトが作れたら人間は自身を超越する。ヒトは神の被造物であって、人には自身の数を生殖で増やせても、ゼロから造ることはできない。この真理が崩れるということは、すなわち聖書にある神の業が大きく揺れるのだ。……」
遺伝子工学の倫理的問題に、神に真正面から挑もうとする聖子。己の絶命を覚悟して。

この作品は、処女作ということもあり、やや〈粗さ〉はある。でもそれさえもエネルギーを放ち、魅力に変えてしまう力をもった作品だ。
ぜひ多くの人に知ってほしい、読んでみて欲しい。

『ハッピーレクイエム』はウェブサイト「日本の古本屋」からもお買い求めできます。
こちらよりどうぞ。
https://www.kosho.or.jp/products/detail.php?product_id=549095916

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ミモザとビオラ

ミモザとビオラ

文学を楽しみましょう

【ミモザとビオラ】代表の仁矢田美弥です。
今年の2月、「つなぐ、結ぶ、創る ミモザとビオラ」という屋号で開業届を出しました。
 
私は自身も小説を書いており、心の底から文学が好きです。
小説投稿サイトで作品を発表する中で、多くのアマチュアの書き手の方々と知り合いました。
そして、そういった交流の中から、私と同じように、いえそれ以上の情熱をもって作品を書いている方々の存在を知りました。
私が開業に踏み切ったのは、そういったアマチュアの作家さんたち─「才能の原石たち」と呼びます─を少しでも世界に知ってほしいという思いからです。
そんな私にとって、今回「本店・本屋の実験室」に本棚をお借りすることができたのは、本当に跳び上がりたいくらいうれしいことでした。
私の本棚では、商業出版された古書や新刊はもちろんのこと、アマチュアの作家さんの作品のZINE、自製の本をたくさんご紹介していきたいと考えています。

いずれも素晴らしい書き手の方々ばかりです。
ぜひお手に取ってご覧くださいませ。

多くの本好きの方々とつながり、結び、そしてともに創作の喜びを得られますように。

  1. 『単・端・担・反・短篇集』 七瀬コタ 新刊 

  2. 『ハッピーレクイエム』

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